「3年は勤めろ」に根拠はあるのか

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2年目と6年目、両方を縛る数字

※ 以下に登場する人物は、よくある状況をもとにした架空の事例です。特定の個人や企業を指すものではありません。

高橋さん(25歳)は都内のIT企業で2年目を迎えました。配属された部署の仕事が自分に合っていないと感じています。ただ、周囲に相談すると必ず同じ言葉が返ってきます。まずは3年、と。

一方、森さん(29歳)は同じ会社で6年目です。もっと早く動けばよかったと思うことがありますが、今さら遅い気もしています。20代のうちに決めるべきだった、という感覚です。

この二人は正反対の位置にいます。それなのに、どちらも同じ数字に縛られて動けなくなっています。3年に届いていないから動けない人と、3年をとうに過ぎたから動けない人。

ひとつの数字が両方向に効いているとき、その数字そのものを疑ってみる価値があります。この言い回しは、どこから来たのでしょうか。

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出どころは労働慣行ではなく、ことわざ

「3年は勤めろ」という言い方に、法律上の根拠はありません。厚生労働省が推奨しているわけでもなく、業界の申し合わせがあるわけでもありません。

元をたどると、石の上にも三年ということわざに行き着きます。冷たい石の上でも三年座り続ければ温まる、つまり辛抱すれば報われるという教えです。

このことわざ自体は、特定の職場に三年とどまれと言っているわけではありません。物事には成果が出るまでの時間がかかる、という一般的な教えです。

それが就職や転職の文脈に持ち込まれ、いつからか「新卒で入った会社に3年」という具体的な指示のように扱われるようになりました。教訓が、いつのまにか規則の顔をして流通している状態です。

三という数字が選ばれたのも、根拠があってのことではないでしょう。日本語のことわざには三がよく登場します。三人寄れば文殊の知恵、石の上にも三年、二度あることは三度ある。語呂がよく、記憶に残りやすい数だからです。

言葉の出どころが分かると、扱いが変わります。これは守るべき規則ではなく、先人の経験則が固まったものです。経験則は状況が変われば当てはまらなくなります。

実際、この言葉が広まった時代と現在では、前提が違います。転職市場の規模も、企業が中途採用に求めるものも、同じではありません。

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企業は実際に何を見ているのか

採用する側が在籍年数をまったく気にしないかというと、そうではありません。ただし、見ているのは年数そのものではないことが多いようです。

📐 中途採用で在籍年数から読み取られること

短すぎる場合

同じことが繰り返されないかを確認される。理由の説明を求められる。

十分にある場合

一通りの業務を経験しているかの目安になる。

長すぎる場合

環境が変わったときに適応できるかを見られることがある。

短い在籍を問題視されるのは、期間そのものではなく同じ理由で早期に離れることが繰り返されないかという点です。だから、辞める理由を自分の言葉で説明できるかどうかが分かれ目になります。

「上司が合わなかった」だけだと、次も同じことが起きると受け取られます。「この領域を伸ばしたいが、いまの配置ではその機会がない」なら、判断の話として聞いてもらえます。

また、新卒3年以内の離職者を対象とする第二新卒の採用枠を設けている企業もあります。この枠が成立していること自体が、3年未満をまとめて対象外にする一律の基準が一般的ではないことを示しています。

逆に、3年を過ぎたら遅いという理解も実態と合いません。20代後半での転職は珍しいものではなく、経験を評価される側面もあります。森さんが感じている「今さら」は、根拠のある焦りとは言えないでしょう。

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では、何を基準にすればよいのか

期間で判断するのをやめると、代わりの物差しが要ります。使いやすいのは、この場所でまだ積めるものが残っているかという問いです。

2年目でも、まだ触れていない業務が控えているなら、そこを経験してからのほうが持ち出せるものが増えます。逆に、担当が固定されて何年やっても同じことの繰り返しになっているなら、期間を足しても増えるものはありません。

判断の材料は、自分の職務経歴を一度書き出してみると見えてきます。この一年で書ける行が増えたか。増えていないなら、来年も増えない可能性が高いということです。

もうひとつの目安が、任される範囲です。同じ職種でも、判断を委ねられる幅が広がっているなら積み上がっています。範囲が変わらないまま回数だけ増えているなら、それは経験ではなく反復です。

手続きの面では、入社直後の扱いを定めた試用期間や、辞めるときの退職願の出し方を知っておくと、判断が具体的になります。制度を知らないまま迷っている時間が、いちばんもったいない部分です。

「3年」に意味があるとすれば、どこにあるのか

この言葉に根拠がないとしても、まったくの無意味かというとそうでもありません。一定の期間を過ごすことに実利がある場面は確かにあります。

分かりやすいのが、業務が一巡するかどうかです。多くの仕事には年単位の繰り返しがあります。予算の策定、期末の締め、繁忙期と閑散期。一巡を経験していないと、自分が何をしてきたかを説明する材料が薄くなります

営業であれば期の始まりから終わりまで、製造であれば生産計画の一周、開発であれば企画からリリースまで。この単位を一度通しておくと、断片ではなく流れとして語れるようになります。

ただし、その一巡が3年かかるとは限りません。半年で回る仕事もあれば、5年かかる仕事もあります。だから期間ではなく、一巡したかどうかで見るほうが正確です。

もうひとつの実利が、成果が形になるまでの時間です。担当した施策の結果が出るのは、着手から数か月後や翌期になります。途中で離れると、自分の仕事がどう着地したのかを知らないまま終わります。

これは職務経歴を書くときに効いてきます。何をしたかは書けても、どうなったかが書けない。この差は思っているより大きく響きます。

逆に、期間を足しても増えないもの

一方で、時間が経てば自動的に増えるわけでもありません。担当が固定され、同じ手順を繰り返すだけの配置では、3年目も5年目も書ける内容が変わらないことがあります。

判断の基準になるのは、任される範囲が動いているかどうかです。同じ業務でも、判断を委ねられる幅が広がっているなら積み上がっています。範囲が変わらないまま回数だけ増えるのは、経験ではなく反復です。

この見分けは、実は自分でつけられます。一年前の自分に戻ったとして、いまの仕事を問題なくこなせるか。こなせるなら、この一年で増えたものは多くありません。

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早く動いた人と、遅く動いた人の後悔

期間の議論から離れて、実際に後悔しているのはどういう人かを考えてみると、別の輪郭が見えてきます。

早く動いて後悔している人に共通するのは、辞める理由を言語化しないまま動いたことです。嫌だったことは言えるのに、何を求めているかが言えない状態で移ると、次でも同じことが起きます。

この場合、問題は在籍が短かったことではありません。短くても、理由が整理されていれば話は通ります。整理されていないまま動いたから、繰り返しになったわけです。

遅く動いて後悔している人に共通するのは、確かめずに待ったことです。動くかどうかを保留したまま年月が過ぎ、気づいたときには前提が変わっている。

待つこと自体は悪くありません。問題は、待つあいだに情報を集めていなかったことです。同じ「待つ」でも、材料を持って待つのと、何も知らずに待つのでは意味が違います

この二つを並べると、後悔の原因が期間ではないことが分かります。早すぎたから、遅すぎたからではなく、判断の材料がないまま動いたか、材料を集めずに止まっていたか。どちらも同じ問題の裏表です。

冒頭の二人はどうすればよかったのか

2年目の高橋さんに必要なのは、あと1年待つことではありません。いまの配置で一巡を経験したか、この先に触れていない業務が残っているかを確認することです。

残っているなら、経験してから動くほうが持ち出せるものが増えます。残っていないなら、1年足しても状況は変わりません。

6年目の森さんに必要なのは、遅れを取り戻すことではありません。6年で何が積み上がったのかを書き出してみることです。書き出せる量が多ければ、それは遅れではなく蓄積です。

どちらの場合も、必要なのは決断ではなく確認です。動くかどうかを決める前に、いま自分が何を持っているかを知る。順序を逆にすると、判断の質が上がりません。

💡 「3年」で迷っているときの整理

  • この言い回しに法律上の根拠はなく、ことわざが労働の文脈に転用されたもの。
  • 採用側が見ているのは年数そのものより、辞める理由を説明できるかどうか。
  • 第二新卒の枠が成立している以上、3年未満を一律に外す基準は一般的ではない。
  • 3年を過ぎたら遅いという理解も実態と合わない。
  • 期間ではなく「この場所でまだ積めるものが残っているか」で判断する。

まとめ

「3年は勤めろ」という言葉に、制度としての根拠はありません。石の上にも三年ということわざが、就職の文脈に持ち込まれて規則のように扱われるようになったものです。

この数字は、2年目の人を「まだ足りない」と縛り、6年目の人を「もう遅い」と縛ります。ひとつの目安が正反対の二人を同時に止めているとき、目安のほうを疑うほうが健全でしょう。

実際に採用の場で見られているのは、年数ではなく理由の説明です。なぜ動くのかを自分の言葉で言えるなら、在籍が2年でも6年でも話は通ります。

そして判断の基準は、期間ではなく積み上がりのほうに置くのが実務的です。この一年で職務経歴に書ける行が増えたか。増えていないなら、来年も同じである可能性を考えたほうがよいでしょう。年収がなぜ動かないのかについては、同じ仕事でも年収が違う理由で扱っています。

📋 この記事の要点

  • 「3年は勤めろ」に法律上の根拠はない。ことわざの転用が固まったもの
  • 2年目を「まだ」と縛り、6年目を「もう遅い」と縛る、両方向に効く数字
  • 採用側が見るのは年数より、辞める理由を説明できるかどうか
  • 第二新卒の枠がある以上、3年未満を一律に外す基準は一般的ではない
  • 判断は期間ではなく「ここでまだ積めるものが残っているか」で行う

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