同期との差が、3年目で100万円を超えた
※ 以下に登場する人物は、よくある状況をもとにした架空の事例です。特定の個人や企業を指すものではありません。
佐藤さん(27歳)は食品メーカーで品質保証を担当しています。入社4年目、年収は420万円ほど。仕事にはやりがいがあり、社内の評価も悪くありません。
大学の同期である田中さん(27歳)は、半導体商社で技術営業をしています。年収は560万円。久しぶりに会って話したところ、労働時間も、任されている責任の重さも、そう変わらないことが分かりました。
それなのに、140万円の差がついています。佐藤さんは考えます。自分の努力が足りないのだろうか、と。
この問いの立て方が、実はずれています。年収の差は、個人の努力より前の段階でほとんど決まっているからです。何がどこで決まっているのかを、層に分けて見ていきます。
年収は3つの層で決まる
📐 年収を決めている3つの層
業界の付加価値
一人あたりがどれだけの粗利を生む構造か。個人では動かせない。
企業の賃金制度
等級・賃金表・賞与の設計。入る会社を選ぶ時点で決まる。
個人の評価
同じ等級のなかでの上下。実は動く幅がいちばん小さい。
一番下の層が業界です。同じ労働時間を投じても、業界によって一人あたりが生む粗利はまったく違います。装置産業と労働集約型では、そもそも配れる原資が違うわけです。
佐藤さんと田中さんの差の多くは、ここで説明がつきます。本人の頑張りとは無関係な、産業構造の話です。
二番目が企業の賃金制度です。同じ業界のなかでも、等級の刻み方、賃金表の水準、賞与の算定式で差が出ます。ここは会社を選んだ時点でおおむね決まります。
三番目が個人の評価です。多くの人が「年収を上げる」と考えるとき、思い浮かべているのはこの層でしょう。
ところが、この三番目の層で動く幅が、三つのうちいちばん小さいというのが実際のところです。
多くの企業では、等級ごとに賃金の範囲があらかじめ決まっています。評価が高くても、同じ等級にいるかぎり、その範囲の上限を超えることはできません。
つまり「評価を上げれば年収が上がる」は、制度の範囲内でしか正しくありません。範囲を超えるには等級そのものを上げる必要があり、それは昇進と昇格の話になります。
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「成果を出しているのに給料が変わらない」という感覚には、たいてい根拠があります。制度の側にそう設計されているからです。
ひとつは、原資が先に決まっている点です。昇給や賞与に充てられる総額が決まったうえで、評価に応じて配分されます。全員が高評価でも総額は増えません。
もうひとつが、評価と処遇の時間差です。年に一度の改定にしか反映されないため、期の途中で成果を出しても支給額はその年度中は動きません。この構造は年俸制でも同じです。
さらに、評価そのものにも偏りが生じます。何をどう見られているかは人事考課の記事で扱いましたが、印象や直近の記憶に左右される部分が残ります。
これらを合わせると、個人の努力が年収に届くまでに、三重の減衰がかかっていることになります。届かないのは怠けているからではありません。
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メーカーで働いている場合、同じ職種が他社でいくらの水準にあるかは、業界に詳しい相手に聞くのが早道です。応募を決めていない段階でも、求人の水準と求められる経験を知っておくと、ここまでの計算に実際の数字を入れられます。
では、どこを動かせるのか
動かせる順に並べると、皮肉なことに個人の評価がいちばん下になります。上の層ほど効きますが、変えるには場所を移す必要があります。
ただ、いきなり移る話ではありません。まず自分がどの層でいくら損をしているのかを知るのが先です。ここを測らないまま動くと、業界を変えたのに制度で損をする、といったことが起きます。
測り方は難しくありません。同じ職種の求人票を10件ほど並べて、提示されている水準を見ます。このとき、月給の額面ではなく、固定残業代を差し引いた実質で比べるのが要点です。読み方はみなし残業の記事にまとめました。
自社の等級制度も確認しておく価値があります。いまの等級の上限がいくらか、次の等級に上がるには何が要るか。これが分かると、あと何年でどこまで行けるかが計算できます。
その計算結果が納得できるものなら、残る判断に根拠が生まれます。納得できないなら、上の層を変えるしかないという結論になります。どちらにせよ、数字で見てから決めるほうが、後悔が小さくなります。
業界の差は、どこから生まれるのか
一番下の層である業界の差について、もう少し踏み込んでおきます。ここが分かると、努力の話ではないという実感が持てるからです。
指標になるのが、一人あたりがどれだけの粗利を生む構造かという点です。同じ8時間を働いても、業界によってその8時間が生む金額が違います。
設備で稼ぐ産業では、人が増えなくても売上が伸びます。一人あたりの生む額が大きくなるため、配れる原資も大きくなります。逆に、人の時間がそのまま売上になる業態では、一人あたりの上限が構造的に決まります。
もうひとつが、値段を自分で決められるかどうかです。価格の決定権を持つ側と、受け入れる側では、利益率がまったく違ってきます。下請けの構造にいる企業は、努力しても価格に跳ね返しにくい立場にあります。
佐藤さんと田中さんの差の多くは、この二つで説明がつきます。食品と半導体という産業の違い、メーカーと商社という立ち位置の違い。どちらも本人が入社時に選んだ結果であって、いまの働きぶりとは関係がありません。
ここを理解しておく意味は、責任の所在をはっきりさせることにあります。構造の問題を個人の努力不足だと思い込むと、努力の量を増やすという間違った処方に向かいます。
ただし、業界を変えれば上がるとは限らない
では業界を移ればよいかというと、話はそう単純ではありません。付加価値の高い業界でも、賃金制度の設計が渋ければ手取りは伸びません。
逆に、業界としては平均的でも、賃金の水準を高く設定している企業もあります。三つの層は独立しているので、上の層だけを見て決めると外します。
また、業界を変えるとこれまでの経験の一部が使えなくなります。年収が上がっても、積み上げを一度崩す形になることがある。金額だけで比べると、失う側が計算に入りません。
制度を読むための3つの質問
自分がどの層でいくら損をしているのかは、社内で聞けば分かる部分が多くあります。聞きにくいと感じるかもしれませんが、制度についての質問なので、答えられないほうが不自然です。
ひとつ目は、自分がいまどの等級にいて、その等級の賃金の範囲がどこまでかという質問です。範囲の上限が分かると、いまの等級であと何年でどこまで行けるかが計算できます。
二つ目が、次の等級に上がる要件です。何ができるようになれば上がるのか、実際に上がった人は何年かかっているのか。この二つはセットで聞く価値があります。要件だけ聞いても、実際の運用が違うことがあるからです。
三つ目が、賞与の算定の仕組みです。何を基準に決まるのか、会社の業績と個人の評価がどういう割合で効くのか。ここが分かると、自分の努力で動く部分がどれだけかが見えます。
これらを聞いても構いません。むしろ制度を理解しようとする社員は、人事から見れば扱いやすい相手です。不満をぶつけるのではなく、仕組みを知りたいという聞き方をすれば角は立ちません。
聞いた結果をどう使うか
答えが出たら、外の水準と並べます。求人票の実質水準と、自社であと何年かけて到達する水準。この二つを同じ表に置くと、判断が数字の比較になります。
差が小さければ、動くコストに見合いません。差が大きければ、それが動く理由になります。どちらにせよ、感情ではなく計算で決められる状態にするのが目的です。
なお、この作業をしても動かないという結論になることは十分あります。それでも計算した価値は残ります。何年後にどうなるかを知っている状態と、知らない状態では、日々の受け止め方が変わるからです。
差が見え始めるのは、何年目からか
新卒で入った直後は、この差がほとんど見えません。初任給は業界を越えても大きくは変わらず、同期で集まっても金額の話にはなりにくいものです。
差が開き始めるのは、等級が分かれてからです。多くの企業では入社数年は横並びで進み、そこから評価や昇格の速度によって間隔が生まれます。同時に、業界ごとの伸び方の違いも効き始めます。
だから20代半ばで同期と会うと、金額が違うことに驚くことになります。ここまで同じだと思っていたものが、実は最初から違う軌道に乗っていたと気づく瞬間です。
この気づきが遅れるほど、修正にかかる時間が増えます。30代に入ってからの軌道変更は、選べる範囲が狭くなるためです。逆に言えば、差を早く知ることには実利があります。
もっとも、金額の高い軌道が自分に合うとは限りません。ここで確かめたいのは、どちらが良いかではなく、いま自分がどの軌道に乗っているかという事実のほうです。
💡 年収の差を分解するときの視点
- 差の大部分は業界の付加価値と企業の賃金制度で決まっており、個人の評価で動く幅は小さい。
- 等級ごとに賃金の範囲があり、評価が高くても等級を上げないと上限を超えられない。
- 昇給の原資は先に総額が決まっているため、全員が高評価でも増えない。
- 測るには、同職種の求人票を10件ほど並べ、固定残業代を引いた実質で比べる。
- 自社の等級の上限と昇格の要件を知ると、あと何年でどこまで行けるかが計算できる。
まとめ
同じような仕事で年収が違うとき、その差の多くは業界の付加価値と企業の賃金制度という、個人の外側にある層で生まれています。
個人の評価で動く幅は、三つの層のなかでいちばん小さいのが実際です。等級ごとに範囲が決まっており、原資も先に総額が決まっている。成果が年収に届くまでに三重の減衰がかかります。
だから「頑張っても上がらない」という感覚には根拠があります。制度がそう設計されているのであって、努力の量の問題ではありません。
やるべきことは、まず自分がどの層でいくら損をしているかを測ることです。同職種の求人票を並べ、自社の等級の上限を確認する。数字が出てから、残るか動くかを決めれば十分です。在籍年数を基準にする考え方については、「3年は勤めろ」に根拠はあるのかで扱っています。
📋 この記事の要点
- 年収は「業界の付加価値」「企業の賃金制度」「個人の評価」の3層で決まる
- 個人の評価で動く幅は3つのうち最も小さい
- 等級ごとに賃金の範囲があり、評価が高くても上限は超えられない
- 昇給の原資は総額が先に決まっているため、全員高評価でも増えない
- まず測る。同職種の求人票10件と、自社の等級の上限を確認する
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