「動機善なりや、私心なかりしか」の意味

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名言の全文と意味

「動機善なりや、私心なかりしか(どうきぜんなりや、わたくしごころなかりしか)」は、京セラとKDDIを創業し、経営破綻したJALを再建した稲盛和夫(1932〜2022)の言葉です。

意味は「この行動の動機は善いものか、そこに私利私欲はないか」という自問です。何かを決断する前に、自分の心に問いかける判断基準として稲盛が実践し、多くの経営者に広めた言葉です。

稲盛は盛和塾(経営者の勉強会)や著書を通じてこの言葉を繰り返し語り、「人間として正しいことをする」という経営哲学の核心として位置づけていました。

この名言が生まれた背景

稲盛和夫は1959年、わずか27歳で京セラ(京都セラミック)を創業しました。技術者出身の彼は当初、経営の「け」の字も知りませんでした。どんな決断を下せばよいか、何を判断基準にすればよいか、日々悩み続けた末にたどり着いたのが「人間として何が正しいか」という原点でした。

特に、新しい事業に参入するかどうか、大きな投資をするかどうかという重大な局面で、稲盛はこの問いを自分に課しました。「この判断は会社のためか、それとも自分の名声や欲望のためか」「世間に堂々と言えることか」と問い続けた末に下した判断だからこそ、ブレのない経営ができたと述べています。

2010年、稲盛は78歳にして経営破綻したJALの再建を無報酬で引き受けました。周囲の反対を押し切った決断の根拠を問われ、「動機善なりや、私心なかりしか」と自問し、「日本経済のため、JALの社員のため、利用者のため」という答えが得られたから引き受けたと語っています。JALはわずか2年8ヵ月で再上場を果たしました。

この言葉の核心は「動機」を問うことです。行動の結果が善くても、動機が私利私欲であれば長続きしない。逆に動機が善く私心がなければ、たとえ一時的に失敗しても必ず道は開ける。そういう経営者としての信念が、この一言に凝縮されています。

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稲盛が「動機善なりや、私心なかりしか」を体系化したのは、京セラの急成長期に直面した苦悩がきっかけでした。創業から十数年で会社は飛躍的に成長しましたが、若い経営者として日々下される無数の判断に、確かな基準を持たない不安が常にあったといいます。技術判断や資金繰りなら数字で答えが出せても、人事や事業の方向性となると、何をもって正しいとするかの拠り所が必要でした。そこで稲盛が辿り着いたのが、「人間として何が正しいか」という原点に立ち返る判断軸であり、それを実務で問い直すための問いが「動機善なりや、私心なかりしか」だったのです。

この問いには、二段階の構造があります。第一段階の「動機善なりや」は、判断の出発点である動機そのものが善いものかを問います。会社の長期成長のため、顧客のため、社員のため、社会のため――そうした他者・公益への動機が含まれているかを確認します。第二段階の「私心なかりしか」は、その動機の中に自分の名声・保身・嫉妬・体面といった私的欲望が紛れ込んでいないかを掘り下げます。稲盛はこの二つを分けて自問することで、自分の判断が公益と私利の境界を越えていないかを見極めました。

盛和塾では、稲盛は経営者たちに「夜寝る前に、その日下した重要な決定を一つひとつ振り返り、動機善なりや・私心なかりしかと自問する習慣を持ちなさい」と説きました。判断の瞬間には正しいと思っても、夜の静かな時間に振り返ると、無意識のうちに私心が紛れ込んでいたことに気づくことがある。そうした内省の積み重ねが、判断の質と人格の両方を磨いていく――稲盛が伝えたかったのは、判断技術ではなく経営者の生き方そのものだったと言えます。

京セラの「アメーバ経営」やJALの「フィロソフィ手帳」も、この思想の延長線上にあります。組織の各単位が独立採算で経営判断を行う仕組みも、社員一人ひとりが日々の行動指針を持つ仕組みも、根底にあるのは「動機の善さ」を組織全体で問い直す文化づくりでした。経営手法は時代によって陳腐化しますが、判断の根本にある問いそのものは陳腐化しない。稲盛が残した最大の遺産はこの一句に凝縮されていると言っても過言ではありません。

稲盛が説いた「動機の善さ」は、現代の「パーパス経営」や「ステークホルダー資本主義」の議論に半世紀先んじていたとも言えます。短期の利益や株主還元だけを追求する経営ではなく、社会・顧客・社員・取引先という多面的なステークホルダーへの貢献を判断軸に組み込む発想は、いま世界中の経営者が苦闘して掴もうとしているテーマそのものです。稲盛は1970年代からこれを実践し、京セラ・KDDI・JALという三社で結果を出して見せました。

ビジネスでの活かし方と例文

重大な意思決定の前の自問として

新規事業参入、大型投資、組織変更など、後戻りしにくい決断を前に、自分の動機を確認するために使えます。

例文:
「この新規事業への参入を検討する際、稲盛さんの言葉『動機善なりや、私心なかりしか』を自問しました。市場の課題を本当に解決したいのか、それとも単に競合に負けたくないという焦りから動いているのか。前者であることを確認して、ゴーサインを出しました。」

リーダーシップ研修・1on1での使い方

若手リーダーや管理職が自分の判断基準を振り返る際のフレームとして使えます。

例文:
「部下のキャリアパスを決める時も、稲盛さんの問いかけが参考になります。『この人事異動の動機は善いか、私心はないか』。自分のチームの都合ではなく、その人の成長と会社全体のためになっているか確認する習慣が大切です。」

スピーチ・企業理念の語りかけ

会社の判断基準や経営哲学を語る場面で、具体的な問いかけとして使えます。

例文:
「当社では判断に迷ったとき、稲盛さんの言葉を借りて『動機善なりや、私心なかりしか』と問います。お客様のためになるか、社会のためになるか。この問いに答えられる事業しか手がけません。」

稲盛和夫が「動機善なりや、私心なかりしか」を最も劇的に実証した瞬間が、1984年6月の第二電電(DDI、現KDDI)創業の決断です。電電公社(現NTT)の独占体制を崩すために通信自由化が議論されていた当時、稲盛は52歳でセラミック専業の京セラから通信事業への参入を決めます。半年間、毎晩寝る前に「動機善なりや、私心なかりしか」を自問し続け、「日本の通信料金を下げて国民の負担を減らす」という公益動機にブレがないことを確認した上で、第二電電を設立しました。同時期に名乗りを上げた日本テレコム・日本高速通信を含む新電電3社のうち、DDIが最終的に最大手となりKDDIへと発展した結果は、稲盛の動機の純度が組織の判断力と粘り強さに変換された証左です。

2010年のJAL再建で稲盛が78歳・無報酬で会長就任した決断も、同じ自問の延長線上にありました。当時のJALは負債総額2兆3,221億円、戦後最大の会社更生法適用案件でした。稲盛は再生の見込みについて専門家から悲観的な見解を受けながらも、「動機善なりや」を自問し「日本経済のため・JAL社員のため・利用者のため」という3つの公益動機が揃っていることを確認して引き受けました。結果は2012年9月の再上場というスピード再生で、当初想定の5倍を超える成果を生みました。盛和塾(稲盛が主宰した経営者勉強会)の塾生1万人以上が現在も「動機善なりや、私心なかりしか」を経営判断のチェックリストとして使っており、京セラフィロソフィの中核として『心。』『生き方』など稲盛の著作シリーズが累計500万部以上を売り上げる事実が、この一句の現代的射程を物語っています。

似た意味の名言・格言

  • 「利他の心」(稲盛和夫) — 他者の利益を優先する心。「私心なかりしか」と同じ稲盛の哲学の核心にある言葉。
  • 「三方よし」(近江商人の理念) — 売り手よし、買い手よし、世間よし。動機の純粋さを問う稲盛の言葉と同じ方向性を向く商人道徳。
  • 人事を尽くして天命を待つ — 私心なく最善を尽くした後は結果を天に委ねるという考え。動機の純粋さを前提にした言葉。

稲盛和夫がJAL再建で「動機善なりや、私心なかりしか」を組織全体の判断基準として展開した2010年以降の取り組みは、戦後最大規模の企業再生案件として研究対象になりました。負債総額2兆3,221億円のJALを、稲盛は78歳・無報酬で会長就任。京セラフィロソフィを参考にJAL独自の「JALフィロソフィ手帳」を作成し、3万2千人の社員全員に配布して、月1回の勉強会で「動機善なりや、私心なかりしか」を自問する習慣を組織文化として根付かせました。再上場は当初計画の半分以下の期間で達成され、業績はV字回復しました。組織全体に判断基準を浸透させた結果、現場の意思決定スピードが速まり、責任の所在も明確になったというのが、稲盛が後に経営学者との対談で何度も語った成功要因です。

まとめ

「動機善なりや、私心なかりしか」は稲盛和夫が実践した意思決定の問いかけであり、「この判断の動機は善いものか、そこに私利私欲はないか」という自問です。

JAL再建の決断など、自らの人生で何度もこの問いに立ち返った稲盛の実績が、言葉に重みを与えています。経営判断や人事など後戻りしにくい決断の前に、自分の動機を確認する習慣として活用できます。

ビジネスでは、意思決定の基準として組織に広める際や、リーダーシップ育成、企業理念の語りかけで引用すると効果的です。

同じく経営者の判断軸を語る視座は西郷隆盛「敬天愛人」にも通じ、中村天風「絶対積極」と並べて読むと、稲盛経営哲学の系譜が立体的に見えてきます。

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