「三十六計逃げるに如かず」の意味と語源、使い方

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「三十六計逃げるに如かず」の意味

三十六計逃げるに如かず(さんじゅうろっけいにげるにしかず)とは、形勢が不利なときは、あれこれ策を弄するよりも逃げるのが最善の策だという意味のことわざです。

「三十六計」は多くの計略、「逃げるに如かず」は逃げることに及ぶものはないという意味です。どんなに優れた計略を持っていても、勝ち目がないときは撤退こそが最も賢い選択だという、兵法の知恵を凝縮した言葉です。

現代では「三十六計逃げるに如かずだ」という形で、不利な状況からの戦略的撤退や、見切りをつける判断を肯定する場面で使われています。

📌 押さえどころ

  • 撤退も立派な戦略—損切りの勇気が次の勝機を生む
  • 孫子の勝算なき戦いは避けよの思想と通底
  • プロジェクト中止・事業撤退・転職判断の意思決定指針

「三十六計逃げるに如かず」の語源・由来

このことわざの起源は、中国・南北朝時代の宋(そう)の武将に遡ります。宋の将軍・檀道済(たんどうせい)は、北魏(ほくぎ)との戦いで数々の戦功を挙げた名将でした。しかし晩年、宋の朝廷内で猜疑を受け、最終的に処刑されてしまいます。

「三十六計、走るを上計と為す」

— 『南斉書』王敬則伝

檀道済が残した言葉が「三十六策は走ぐるを上計と為す(三十六策、走為上計)」だったと、南朝の歴史書『南斉書(なんせいしょ)』王敬則伝に記録されています。「走」は逃げること。三十六の計略の中でも、逃げることが最上の策だという意味です。

なぜ「三十六」なのかについては、いくつかの説があります。一つは、中国の兵法書『兵法三十六計』に由来するという説。この兵法書は三十六の計略を体系化したもので、最後の第三十六計が「走為上(走ぐるを上と為す)」、つまり逃走です。勝てない戦いからは撤退するのが最善だという教えが、三十六計の締めくくりに置かれています。

もう一つは、「三十六」が単に「非常に多い数」を意味する慣用的な数字だという説です。中国語では「三」や「六」の倍数が「たくさんの」という意味で使われることがあり、「どんなにたくさんの計略があっても、逃げるのが一番」という解釈です。

いずれの説にしても、この言葉が伝えている本質は同じです。撤退は臆病ではなく、知恵ある者の選択だということ。そして、不利な状況にしがみつくことこそが愚かであるということ。兵法の世界では、戦いに勝つことと同じくらい、退くべき時に退くことが重視されてきました。

日本にはことわざとして伝わり、「三十六計逃げるに如かず」という形で定着しました。ビジネスの世界でも、撤退判断の難しさと重要性を語る場面で引用される言葉です。

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「三十六計逃げるに如かず」は、中国南北朝時代の宋(420〜479年)の名将・檀道済(だんどうせい)の故事に由来します。檀道済は北魏との度重なる戦役で活躍した武将で、勝算のない戦闘では巧みに撤退して兵力を温存し、後の反攻に備える戦術を得意としました。その用兵術が「三十六計、走るを上計と為す(三十六種の戦略の中で、逃げることが最善である)」と評され、『南斉書』王敬則伝(南朝梁の蕭子顕編・537年頃成立)に収録されました。

「三十六計」という言葉の起源について、檀道済が用いた具体的な計略の総数を指すという説と、単に多くの計略の中でという慣用表現とする説の二つがあります。明代から清代にかけて成立した兵法書『三十六計』(作者不詳)は、後世の編纂者が「勝戦計」「敵戦計」「攻戦計」「混戦計」「併戦計」「敗戦計」の6種×6計=36の戦略を整理した実用書で、檀道済の故事を巻頭の概念基盤に据えています。

日本には鎌倉時代に伝来し、軍記物『太平記』や『甲陽軍鑑』にも「逃げるが勝ち」「逃げるは恥にあらず」といった類似表現が見られます。江戸期の儒学者・荻生徂徠は『鈐録』で兵法を論じる中、撤退の判断こそ将器の試金石であると述べており、東アジアの兵法思想において撤退の正当化は古来重要なテーマでした。

ビジネスでの使い方と例文

会議・プレゼンでの使い方

不採算事業からの撤退やプロジェクトの中止判断を提案する場面で、撤退が前向きな戦略であることを伝える際に使えます。

例文:
「この事業は3期連続の赤字で、市場環境の好転も見込めません。三十六計逃げるに如かずです。ここでの損切りは敗北ではなく、成長事業にリソースを集中させるための戦略的判断です。」

メール・報告書での使い方

判断の根拠を示しつつ、方針転換を報告する場面で使えます。撤退を肯定的なトーンで伝えるのに適した表現です。

例文:
「競合A社の価格攻勢に対し、これ以上の値下げ対抗は利益を圧迫するだけと判断しました。三十六計逃げるに如かずの精神で、価格競争を避け、高付加価値セグメントに注力する方針に転換します。」

1on1・指導での使い方

部下が困難な案件に固執しているときや、方向転換を促したいときに使えます。

例文:
「あの案件にもう3か月かかっていますね。三十六計逃げるに如かずという言葉もあります。見込みの薄い案件に時間を費やすより、別のアプローチを探る方が結果につながるかもしれません。」

間違いやすいポイント・誤用に注意

「三十六計逃げるに如かず」は安易な逃避を勧める言葉ではありません。あくまで「形勢が不利な場合」の最善策として撤退を説いているのであり、困難に直面するたびに逃げることを正当化する言葉ではありません。粘り強く取り組むべき場面で安易に引用すると、責任放棄と受け取られます。

この言葉のポイントは「戦略的判断としての撤退」にあります。状況を冷静に分析した上で、勝ち目がないと判断したときに使うのが正しい用法です。分析なしに感情的に「もう逃げよう」と言うのは、この言葉の知恵とは異なります。

また、「三十六計」を「三十六景」と混同するのは誤りです。葛飾北斎の「富嶽三十六景」とは無関係です。兵法の「計」と浮世絵の「景」をしっかり区別しましょう。

三十六計逃げるに如かずは、現代経営学の「サンクコスト効果(埋没費用効果)」への警鐘として再評価されています。1985年に米国オハイオ大学のハル・アークス教授とキャサリン・ブルマーが定式化したこの理論は、過去に投資したコストに引きずられて非合理な継続を選びがちな人間の意思決定バイアスを説明します。1980年代のRJRナビスコのアルミ缶事業撤退、2010年代のソニーのVAIO売却、2020年のGEのパワー事業縮小など、撤退を躊躇すれば全社の存続を危うくする事例が世界中で繰り返されてきました。

戸部良一・寺本義也ら『失敗の本質ー日本軍の組織論的研究』(中公文庫・1991年)は、ガダルカナル島の戦いやインパール作戦における旧日本軍の撤退判断の遅れを分析し、撤退を「敗北」ではなく「次の戦力温存のための戦略行動」と位置づけられない組織文化が破滅を招いた構造を解明しています。これは三十六計逃げるに如かずの古代の智慧が、20世紀の組織論的研究で検証された貴重な事例です。

シリコンバレーの起業文化では「Fail Fast, Fail Cheap(速く・安く失敗せよ)」という標語が定着し、ピボット(事業転換)や撤退を恥とせず称賛する文化が形成されています。エリック・リース『リーン・スタートアップ』が説く「学習を最大化する撤退」も、三十六計の現代的実装と位置づけられます。退却を恥としない判断力こそが、変化の激しい時代の経営者に求められる第一の徳目です。

類語・言い換え表現

  • 損切り — 損失が拡大する前に手を引くこと。投資やビジネスでの撤退判断を指す現代的な表現。
  • 逃げるが勝ち — 争いを避けて引く方が結果的に得だということ。三十六計と同趣旨の日本語のことわざ。
  • 君子危うきに近寄らず — 賢い人は危険を避けるということ。撤退よりも事前の回避に重点がある。

対義語・反対の意味の言葉

  • 背水の陣(はいすいのじん) — 退路を断って全力で挑むこと。撤退を勧める三十六計とは正反対の戦略。
  • 不撓不屈(ふとうふくつ) — どんな困難にも屈しないこと。困難から退く三十六計とは対照的な精神姿勢。

三十六計の現代的実装として、シリコンバレーの起業文化「Pivot(事業転換)」が世界的に注目されています。Twitter(旧称Odeo・ポッドキャスト配信から短文投稿へ)、Slack(オンラインゲームGlitchから企業向けチャットへ)、Instagram(位置情報サービスBurbnから写真共有へ)など、世界的成功企業の多くは当初の事業から大胆に撤退し、別の領域でブレイクスルーを起こしています。Y Combinatorの創設者ポール・グレアムは「成功するスタートアップの多くは、当初構想とまったく違う形で成功する」と述べ、{marker(“撤退の勇気”)}が起業成功の必須要素であることを論じました。

個人のキャリアにおいても、三十六計逃げるに如かずは転職・部署異動・副業開始の意思決定指針として再評価されています。米国の組織心理学者リチャード・ボウルズの『What Color Is Your Parachute?』は40年以上にわたるキャリア研究で、不適合な職場に留まり続けるストレスが心身に与える長期的損害を実証し、適時の撤退がキャリア全体の成功率を高めることを示しています。ブラック企業・パワハラ環境からの離脱、合わない上司からの距離、利益率の低い顧客からの撤退—すべて三十六計の現代的実践です。

まとめ

✨ この記事の要点

  • 三十六計逃げるに如かず=不利な局面では撤退が最善の策
  • 南北朝時代の檀道済の故事に由来し『南斉書』に記録
  • 現代経営では「サンクコスト効果」を断ち切る撤退判断の指針

「三十六計逃げるに如かず」は、中国・南北朝時代の兵法の知恵に由来し、不利な形勢では撤退が最善の策だということを説いたことわざです。

安易な逃避ではなく、状況を冷静に分析した上での戦略的撤退を意味します。粘るべき場面と退くべき場面を見極める判断力こそが、この言葉の核心です。

ビジネスでは、不採算事業からの撤退判断や、方針転換の根拠を示す場面で使うと効果的です。撤退を臆病ではなく知恵ある選択として語る際に力を発揮します。

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